はじめに
木工の基礎が詰まってる!
先日、大きい木槌・掛矢(かけや)を作りました!
今後リノベーションで使ったり、物置き場としてテントを組み立てる時に使ったりと出番がありそうです。
記事に書こうと夫にあれこれ聞いていたら、
この掛矢づくりに、木工の基礎知識と技術が詰まっていて、とても興味深かったのでまとめてみました。
あらゆる木工作業の基礎である
- 基礎知識:「木」の性質、扱い方について
- 基礎技術:「正確に〇〇する」技術について
を学ぶことができます。木工をしてみたいあるいはDIYをしてみたいという方にはもちろん、好奇心旺盛な方にオススメです!
この記事は
ひとつの方法(一例)として紹介させていただいています。作業を行われる際は、ご自身で十分に調べてから自己責任で行なってください。この記事を参考して作業を行い損害が発生した場合、当ブログは責任を負いかねますので、ご了承ください。
掛矢(かけや)とは?

掛矢(かけや)とは、樫(カシ)など硬い木で作られた大型の木槌(きづち)のことを言います。
槌の部分の直径は13cm〜15cm、重さが3〜4kgもあります。杭を打ち込む時や、物を壊したりするのに用いられるので、先端が重い方が使いやすいのでしょう。大工さんだと家の建前(たてまえ)で木材を組み上げていくときに使います。
掛矢を作った理由

重めの掛矢が欲しかった
槌の重い方が、一回あたりの打ち込める量が大きいです。軽いと打ち込まれる量が少なく、掛矢を振る回数が増えます。回数が増えると叩いた面ばかり痛めてしまうので、重めの掛矢を作ってみました。
ただ、何かと何を叩くとき、
本当は同じ材質のもの同士が理想
です。単管の杭を打つならば、単管と同じ材質の鉄で打った方が良いです。
…とはいえ、ちょうどいい材料があったので、
作ってみたかった!
というのが、一番の理由だったりします。(・ω・)
掛矢の構造と作り方

こちらが掛矢の構造です。
上から柄を通すので、底面の穴の寸法は頭面より狭くすることで、柄が抜けにくくなっています。
そして、作り方はこちら。

「穴をあけて、柄を通すだけ」なのですが、そこに至るまでの下準備が結構かかりますね。しっかりした物を作ろうと思うとこの下準備がとても大事なのです。
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学べる木工の基礎知識・技術とは?
木工の基礎知識01:「木」の性質について
木は時間が経つと(乾燥による伸縮で)痩せていく性質があります。
…ので、このことを見越して作るのが大前提です。そして掛矢の場合は、
- 木の(乾燥による)伸縮で痩せても、柄が外れないこと
- 打撃による衝撃で、柄を通している穴から槌が割れないこと
が重要になります。そのためには、
木の性質を考慮した、穴(ホゾ穴)の加工をする。
…という方法を行います。
これは、他のホゾ穴加工でも応用が効くので、一度身につけるととても役に立ちますよ。
木工の基礎知識02:「木」の扱い方

先ほど、木は時間が経つと痩せていく性質があると述べましたが、以下の問いはどうでしょう?
材料は、乾いた木の方がいいのか?
答えは、できれば十分に乾燥したものがオススメです。
乾燥が不十分な状態(水分を含んだ木材)で加工をすると、出来上がった後に形が動いてしまいます。木は伐採した後もしばらく水分を含んでいます。十分に乾燥させて、これ以上木が動かない状態になってから加工をするのが好ましいです。十分に乾燥している木材は、しっかりとしたものとなり、強度も増します。
芯がある木材について
さらに、下の絵をご覧ください。芯を持つ芯持ち木材についてです。

木は、元々の丸太の状態でバランスを保っているので、加工をするとバランスを取るため割れやすくなります。
特に芯持ち材料を加工するとよくあらわれます。乾燥による割れ以外に、バランスを保つために割れることもあるので、このような場合は一度加工して、動いた(割れた)後に、もう一度加工をするといった工夫が理想的です。
木目について
枝分かれの部分を使う時は、ここを注意!
木工製品を作るとき、基本的に枝分かれの部分は使いません。(枝の曲がった部分をあえて使う作品などの場合は別です。)枝分かれの部分は、木目が複雑に入り乱れていて、整っていないので加工がしにくいのです。木目が入り乱れている状態で鉋がけをすると、木目に逆らって削ってしまう部分があり、カンナに慣れていないと繊維がめくれてボソボソとした仕上がりになってしまいます。できれば、木目が整っている箇所を使いましょう。
木工の基礎技術:「正確に〇〇する」
次は、この工程で学べる木工の基礎技術について見ていきます。

- 墨付け(正確に線を引く)
- ホゾ穴掘り(正確に掘る)
- 削る(正確に削る)
- 仕上げ(正確に切る、まっすぐに削る)
ここで共通していることは、
「正確に○○する」ということ。
とても簡単そうなのですが結構難しく、この動作の積み重ねが仕上がりを左右します。

やってみるとわかるのですが、はじめのうち、何かを作ろうとすると「頭で思い描いたこと」を「実際に形にする」ことができません。(思う通りにならない。)正確に何かをする、まっすぐに何かをする(曲線を作るも同様)という行為は、特にです。ちょっとズレたり、ちょっと曲がったりします。この行為が人間にとって難しい動作であることがわかります。これを練習して少しずつ身につけていくことが大事で、ものづくりの基礎になるのです。
この掛矢づくりでは、
- 正確に線が引けて
- 正確にノコギリで切れて
- 正確に穴を掘れて
- 正確に削れる
の木工の基礎動作ができるので、きっと大きな武器になると思います。
実践編:掛矢を作る
それでは、実際に作っていきましょう!
丸太材料を長方形にする

まず槌の部分を作ります。こんな感じで大かた形を整えます。

よくフリーハンドで長方形にできたね!
なんかうまくできるコツとかあるの?



うーん。勘。
よくみて、なんとなくかな。



え?もっと、わかりやすい方法とかないの?(笑)
よくよく聞いてみると、
完成形をイメージして、切るたびによく観察して、加工してを繰り返すこと
がポイントのこと。今まで試みてきた経験とこんな感じかなという感覚を駆使するそうです。
難しそうですが、みなさんも持っている感覚ですし大方の形を整えることが目的なので、リラックスして取り組みましょう。
そして使った道具は、チェーンソーです。早いからです。


チェーンソー作業をする時は、安全な作業服を身に付けておこなってください。
チェーンソーは、使い方をきちんと知らないと危ない道具の一つです。各メーカーのHPでも、取扱説明書でも詳細に使い方が明記されていたりするので各自調べて、どうかご安全にお使いくださいね。
基準面(頭面)を決めて、下書きができるまで平らにする


基準面(掛矢の頭面)を決めて、そこに下書き(墨つけ(すみつけ))ができるまで平らにします。
基準面が削れたら、他の3面も削っていきます。削る際は斜めになっていないか確認したり、長方形を保っているか(向かい合う面が並行か)を確認しましょう。




下書きをする(墨つけをする)


墨つけをします。まっすぐ丁寧に引いてみましょう!
あまり馴染みのない言葉ですが、木工に限らず、土木でも、石工でも、造園でも出てくる言葉なので、モノづくりの世界では共通言語かなと思っています。その名の通り、昔は墨でつけていたのが由来です。
そして今回の墨の付け方ですが、以下の通り。


材料は綺麗な長方形ではなく、でこぼこしているので「削りしろ」を見越して仕上がり線をだいたい決めておきます。その仕上がり線から中心線を決めて、その中心線から穴の寸法を書きます。


ホゾ穴加工その1:底面の繊維方向のサイズ(40mm)を少し小さく(36mm)にします
槌の上から柄を通すので基準面(頭面)のサイズより、底面のサイズを小さくして柄が外れにくいようにします。
ドリルで下穴をあける


それでは穴をあけます!
まずは、ドリルを使って下穴をあけます。全て鑿(のみ)を使って手彫りにすると時間がかかって大変です。
いかに垂直に掘ることができるか。
綺麗に仕上げるポイントとして、片側だけで貫通させるのではなく両側から掘りすすめることをオススメします。片側から3分の2ほど掘り進めたら、裏返して掘り進めて貫通させるとキレイに仕上がります。
加工の時は、失敗ができないので緊張します。
間違えたらその材料はダメになってしまいます。「不可逆的」な作業なんですよね。でも失敗しないと上手くならないのも事実で、そういった緊張感も含めて楽しめるのがモノづくりのひとつの魅力なのかなと思います。
鑿(のみ)で穴を加工する


鑿(のみ)で仕上げます。
目指す形は、以下の図をご覧ください。


ホゾ穴加工その2:
ホゾ穴の形状は、中すぼみ(テーパー)の形状かつ繊維と直交している面はむくらせる。
これが木の伸縮で外れないようにする、また割れないようにするポイントです。




赤い面は
まっすぐに仕上げます。ここの寸法がきついと割れる力が働きやすくなるそうなので、気持ち緩め(大きめ)にしておくのが良いとのこと。
青い面は
ここはテーパー形状で、かつ曲面(中すぼみ)に仕上げます。寸法もきつくして、この曲面の頂点でより柄を締める働きをするんだとか。
これが、この掛矢づくりの最大のポイントですね!


縁がめくれない様に、先に切っておきましょう。(口切)
柄を穴のサイズに合わせて削る


その穴のサイズ(テーパー)に合わせて柄を削っていきます。



型を取ってないのに、どうやって削ってるの?



うーん。それも勘かな?



そこも勘かい!(笑)
一気に削るのではなく、仮組みをして確かめながら削っていきます。
仮組みをする


仮組みしましょう。
ここまで順調にきているか確認します。
形を整える(仕上げ)


柄の形が整ったら、あとは外観の仕上げです。
目指すは気持ちむくらせた形状です。
むくりとは、上に向かって凸形に膨らんでいることまたはその曲線や曲面を言います。建築の現場ではよく登場する言葉で「むくり梁」「むくり屋根」「むくり天井」などがあります。




打撃面を平らに仕上げるためにノコギリで切ります。
まっすぐに切り落とします!
あらかじめどこを切るか下書きをしておくと綺麗に切れますよ。
柄を入れる


音に注目!
さあ、いよいよ柄を入れましょう!ここまで長かったですね。
入れる時、音に注意しましょう。「キンッ」という高い音がなるときは入っている証拠ですが、音が鈍くなりはじめると入っていないことになります。
最後に、3cmほど残して柄を切り落とせば完成です!


まとめ
いかがでしたか?
結構盛りだくさんでしたね。
単純な作りにも細かい工夫が積み重ねられていることに驚き、面白いと思った私ですが、みなさんいかがだったでしょうか?モノづくりは奥が深いなと思います。
次は「掛矢の作り方がわかったから、玄能の作り方も同じなの?」という素朴な疑問から、掛矢(または木槌)と玄能の違いについて、考察していきたいと思いますのでお楽しみに!(・ω・)
それではでわ!
参考資料
- 堀大才・岩谷美苗「図解樹木の診断と手当て 木を診る 木を読む 木と語る(第25刷)」農文協(2018)